TOP > 代表 西川の気まぐれ日記

2024 年 07 月 23 日 12:59

「ちょっとした心配り」と顧客満足

 買い物をしたり、サービスを利用する時、時々、そのお店の店員さんの思いがけない気配りや心配りに感動することがあります。自分のことを覚えていてくれた。手間のかかることなのに笑顔でやってくれた。困っている時に親切にしてくれた・・・。マニュアルを超えて店員さんの想いから行われる「ちょっとした心配り」。お店のスタッフとお客様の間で交わされる「ちょっとした顧客体験」について考えてみました。

 こんな体験は誰でも一度はあると思いますが、ある調査では、こうした「ちょっとした心配り」の体験を1人が1年間で体験する割合は14%だそうです。その調査では、この体験をすると「この店をもう一度利用したい」という再利用意向が、体験しなかった時と比べ47ポイントも上がるという結果が出ているそうです。また、こうした体験をすると「この店を人に薦めたい」という推奨度も28ポイントも向上するそうです。こうした調査は一部ですが、自分の実感としても、「ちょっとした心配り」が顧客満足向上やファンづくりの上で、大きな影響を与えていることがわかります。

 その調査にはありませんが、「ちょっとした心配り」は社員の側にも良い影響を与える気がします。「心配り」というのは、相手ことを考え、行動することですが、自分の行為がお客様の笑顔につながったとすれば、「された方」だけでなく「した方」も嬉しくなるはず。「店で決められたサービスを、決められた通りに行う」ことは確かに大事なことであっても、そればかりをやっていると働きがいを感じにくい。しかし、自分が考えて行うこと、そしてそれが誰かの喜びを生み出せることだとすれば、「やりがい」にもなります。「ちょっとした心配り」が増えていけば、顧客も、働く人も、企業にも良い影響が生まれてくるのではないでしょうか。

 しかし、考えてみれば、困っている人がいたら助ける。手を貸す・・・そんな「ちょっとした心配り」は日常生活の中で、社会人があたりまえに行うべきこと。仕事の場で気配りが出来ている人は、日常の場でも同じようにしているはずで、「ちょっとした心配り」は、ビジネスだからやる、顧客満足に有益だからやるというように考えて行うことではなく、人として「あたりまえなこと」を、仕事の場でも当たり前にやろうということなのかもしれません。相手も自分も嬉しくなること、決して損はありません。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢 お客様満足・感動の向上

2024 年 07 月 18 日 09:49

仕事の誇り

 いきいきと働いている人をみると、やはり自分の仕事に誇りを持っています。自分の仕事が社会の役に立っている、誰かのお役に立てていると感じながら働けることほど、充実した時間はありません。自分の仕事や会社に誇りをもてるかどうか。大事な自分の家族に誇れるかどうか。誇りは働きがいです。

 しかし、どうすれば自分の仕事に誇りがもてるのでしょうか。同じ給料で同じ仕事をしている人でも、「こんなつまらない仕事、やってられるか」と思う人もいれば、この仕事は「本当にいい仕事だ」と心をこめ、誇りをもってやる人もいます。しかし、どれだけ上司が、誇りをもってほしいと「仕事の素晴らしさ」を語ったとしても、それに共感するかどうかその人の心の問題。外側から何とかできる問題ではありませんが、自分の仕事に誇りを感じられれば、毎日が変わっていきそうです。

 仕事への誇りは、どのような時に生まれてくるのか。単純ですが、私は、「自分がやると決め、心をこめて行ったことで、誰かが喜んでくれたり、思わぬ感謝の言葉をいただいた体験」が仕事の誇りにつながっていくのではないかと思います。苦しかったけど「やってよかった」「がんばってよかった」という感動体験。仕事を通した感動体験を通して、「自分はいい仕事をしている」という実感が生まれてくる気がします。

 やらされていると感じ、仕事に心がこもっていない仕事でいい仕事はできませんし、そのような仕事で喜ぶ人はいません。例え業務が終わっても、目標を達成しても、やらされている気持ちでいれば、ホッとする気持ちになっても、感動はないはず。一生懸命のプロセスがあってこそ、感動体験が生まれます。
 仕事は、頑張ったから必ず感謝されるかというと、そう単純なものではありません。しかし、そうした仕事を続けている人は、必ず誰かが見ていてくれる。少なくとも、自分自身がいちばん見ています。
 自分の仕事を、心からいい仕事だと大切な家族に誇れる。給料も大事ですが、働く幸せは、こんなこともあるかもしれません。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢 働きがい・やりがいの向上

2024 年 07 月 10 日 13:26

やりたいことしか続かない

 誰でもそうだと思いますが、人間にとって、やりたくないことを続けていくことは本当に苦しいこと。継続するには、それが本当に心からやりたいことでなければ、継続しないのではないかと思います。
 個人もそうですが、企業においても、働く人がやりたいと思ってやっていなければ、いつか破綻していく。人間の本質に沿っていないことを持続させていくことは難しい気がします。
 本来、自分のやりたいようにしたいというのが人間だとすれば、行動を型にはめる「マニュアル」も長続きしないのかもしれません。企業とすれば、「一律なサービス」を提供しようと接客もマニュアルにしますが、顧客としていろいろと見てきても、マニュアル通りの対応をしている人で、楽しそうな人はあまり見たことはありません。もちろん「悪くない対応」なので不満はありませんが、気持ちよいという感情にはなりません。不満を出さないサービスは提供できていても、働く人にとってはどうなのか。短期間のバイトなら我慢ができても、本当にやりがいを求める人にとって魅力はないかもしれませんが、義務感ややらされ感の顧客満足が長続きする訳がない。そんな気がします。
 型にはめない対応を実現するのは、本当に難しいことなのでしょうか。「自分がやりたいと思ったことを、やりたいようにやりなさい」と社員に任せると悪いことが起こるのでしょうか。もちろん、企業である限り、何でもできる訳はなく、できる範囲は制限されると思いますが、働く人の「やりたいこと」を信じてやってもらうことは、そんなに難しいことなのでしょうか。
 昭和の時代は、その仕事が嫌でも、義務感でもやらされ感でも、我慢してやることが当たり前と言われてきましたが、我慢しても、やはりやりたくないことは続かない。
 あなたは、今、やりたいことをやれているか。働く人にも問われていることなのかもしれません。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢 これからの時代の人財育成

2024 年 07 月 03 日 10:29

なぜ、部下が指示通りにしか動かないのか。

 部下が言われたことしかやらない、指示した通りにしかない・・・。そんな悩みを聞くことがあります。世代の特性として言われることがありますが、本当にそうなのでしょうか。YouTubeなどの動画などで、若い人が自分の好きなことに挑戦し、失敗しながらも楽しく活動している様子をみると、今の若い人が指示通りにしか動かない、受け身の世代だとは思えません。

 では、なぜ部下は指示通りにしか動かないのか。ある会社の経営者とその話をしていると、その方は「それは上司が指示をするからだ」という考えをされていました。その会社では、以前から、働きがいこそ社員の幸せであると考え、そうした働きがいを削ぐ要因となる指示命令はしないということを大事にし、それが会社の文化になっています。上司が指示をすることはなく、それぞれが自ら考えて行動しています。
 誰も指示しない。確かに右も左もわからない入社したての人は戸惑うことも多く、悩むこともあるそうですが、自分で考えることが当たり前になってくると、それが普通になり、数か月も経つと、誰に指示されなくてもやるべきことをやるようになるそうです。

 確かに、上司が指示をすると人は動く。しかし、その指示を受けることが当たり前になると、指示を待つようになる。指示されたことをやっているうちは良いかもしれませんが、指示されたことだけをやっていると、ロボットのようになり、多くの場合、仕事が面白くなくなります。面白くなくなるとやる気も出ない。そうなってくると、指示されたこともしたくなくなる。その人の本来の考える力や面白さを奪っているのは、上司の問題かもしれません。
 こうすればいいと指示をしたり、アドバイスをすることは確かに有効で、瞬間的には、部下もその方が楽なのかもしれませんが、本当の問題は、部下がその時に出来たはずの「悩む力」や「考える力」が育たなくなること。先ほどの経営者の会社では、上司は部下の問いに対して答えを出すことはせず、「どうすれば、いいと思う?」という質問をするそうですが、本当に部下を大切に思い、成長してほしいと思うからこそ、このような質問になるそうです。

 なぜ、部下が指示通りにしか動かないのか。
 そのように育てているから、そうなってしまう。それが答えかもしれません。

カテゴリー : これからの時代の人財育成

2024 年 06 月 25 日 10:02

お店の姿勢

 私たち消費者は、お店を選ぶ時、便利だから、品揃えがいいから、接客がいいからというような理由で選んでいると思いますが、その理由の奥に、やはり、そのお店や企業の商売に対する姿勢も判断の軸になっているような気がします。旅行で利用するお店や、1回だけしか利用しないお店なら、それほど問題にしないかもしれませんが、通い続けているようなお店は、結局、その店の姿勢が好きという理由でファンになっているのではないでしょうか。
 お店の姿勢というのは普段は見えないものですが、小さなところ、ちょっとした行動に滲み出てくるような気がします。先日、あるスーパーの方に、お客様と店員さんの小さなエピソードを伺いました。その日、閉店の準備が進み、まな板や包丁などを消毒して片付けをしていた時に、一人のお客様がキャベツをほしいと言ってこられたそうです。それも4分の1だけ。その時に店員さんは、喜んで!と笑顔で片づけたまな板や包丁を出して売ってあげたそうです。面倒な時間に申し訳ないとお客様も思っておられたはず。その時に嫌な顔ひとつせず対応してくれるお店の姿勢は嬉しかったに違いありません。
 こうした対応はその人だけの特別なものではでないはず。普段から、こうしたことを大事にしようという店長がいて、快く手助けしてくれる仲間がいる。会社そのものが業績よりもお客様を大事にしようという姿勢があったからこそできた対応のような気がします。
 お店の姿勢とは、企業の「あり方」、企業の理念。お客様を大事にするという姿勢、喜んでほしいという企業のあり方が「店の姿勢」として消費者に伝わっていく。4分の1のキャベツのように、お店の「あり方」が、売り場に、接客に、商品の細部ににじみ出て、そこに共感したお客様がファンになり、通い続けるようになる。
 閉店間際に来店して、ムスッとした顔をされる店員さんもいますが、そうした対応も含めて、消費者は、いつもお店の「あり方」も敏感に感じているような気がします。
 消費者がお店の「あり方」もお店選びの判断にしているとすれば、企業がもっと理念を大事にし、理念の浸透に多くの時間を割いていくことが、持続的に成長していくためにも大事な気がします。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢 これからの時代の経営のあり方

2024 年 06 月 17 日 17:35

仕事の意義

 仕事がつまらない、身が入らないという人がいます。頑張っているのになかなか成果があがらない、業務量が多い、単調になってしまう、身体が疲れている・・・そんな気持ちになる時の要因は様々だと思います。何が要因か、実際はその人によって異なるのかもしれませんが、その可能性のひとつとして、自分の仕事の意義・意味を感じられなくなっているということがあるかもしれません。
 自分の仕事をただの仕事だと感じるか、それとも社会に役立つ価値ある仕事だと感じて働いているか。もし膨大な仕事をしていたとして、身体は疲れていたとしても、後者なら心は疲れないはず。目的も知らされず、「ただこの作業を行え」と言われてやるほど、苦しいことはありません。今、若い人の転職が増えていますが、やりがいを求めるのは、やはり自分にとって意義あること、意味のあることをしたいと誰もが思っているのではないでしょうか。
 何のために働いているのだろうか。この仕事の意義は何だろうか。その人がわからなくても、どの会社にも、その答えがあります。多くの会社の事業の意義、意味は経営理念として明確になっているはずです。ただ、それが、社員にとっての「自分の働く意義、意味」として感じているかどうかは別の話で、経営理念がただ飾られているだけの会社では、社員もそれを感じる機会が少なくなるのではないでしょうか。理念が形骸化している会社ほど、仕事が作業になり、「つまらない」となってしまうのかもしれません。
 自分の仕事に意義を感じているかどうかは、簡単な質問でわかります。例えば、車という商品を売っている会社の社員に「あなたの仕事は何ですか?」と尋ねてみる。そこで、何と応えるか。「私の仕事は、車を売る仕事だ」と応える人もいます。しかし、笑顔で「私の仕事は、車を通して人の幸せを提供する仕事だ」と応える人もいます。前者は仕事を単なる業務としてとらえている人。後者は、自分を、社会に役立つ仕事だと意義を感じている人。どちらの人がいきいきと働けているかどうか、言うまでもありません。
 今、多くの企業で、希望をもって入社した若い人が3年たたずに辞めていくという状況が多くなっています。離職する理由はいろいろとあるかもしれませんが、もし「つまらない」と感じさせてしまうのは、やはり、自分のやっている仕事の意義や意味を感じさせてあげられていないということもあるのではないでしょうか。与えられた仕事をただの作業ととらえる3年か、その作業の先にはお客様がいて、喜んでもらっている尊い仕事をしていると感じて働く3年か。先輩や会社が理念を忘れていると、仕事は労働にしかならないですし、そんな会社に魅力を感じることはない。働く人が少なくなる時代、意義を求める時代だからこそ、改めて企業の理念というものが大事になる時代だと思います。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢 働きがい・やりがいの向上

2024 年 06 月 11 日 13:23

自信と慢心

 自信を持つことは大事なこと、しかし、慢心になってはいけないと言われます。
 「自信」と「慢心」は何が違うのでしょうか。辞書によれば、「自信」とは自分で自分の能力や価値などを信じること。自分の考え方や行動が正しいと信じて疑わないこと。物事に対して「自分はできる」と信じること。確かに自信を失ってしまうと前に進めません。
 失敗をすると自信を失い、未来が不安になります。だからこそ、一歩一歩実績を積む。未来に対して「自分はできる」と思えるようにしていかなければならない。過去の積み重ねの中で少しずつ高まっていくのが自信。しかし、ある程度、自分で出来るようになると、そこでOKを出して「仕事をこなす」という感覚になることもあります。自分は出来るという感覚が続くと人のアドバイスも聞かなくなる。こんな時が「慢心」。得てして、大きなミスや失敗はこんな時に生まれてきます。
 一流アスリートを見ていると、確かに自信に満ちてプレーをしていますが、決してこなすようなプレーはしていない。一流選手ほど「これでいいのだろうか」「もっとできるはず」だと思い、努力を継続しています。職人の世界でも、ビジネスの世界でも同じ。自信をもっていたとしても、どこまでも慢心しない。一流と二流の差はこんなところにあるのかもしれません。

 本当の自信を持っている人は、自分の本当の力を正しく認識できていると聞いたことがあります。例えば、何かが達成できた。一般的には嬉しいと思うだけだが、真の自信を持っている人は「ここはできているが、ここはできていない」「ここは繰り返しできるようになったが、ここはまだまだミスが起こる」というように、ひとつひとつのことを具体化してみている。細部を正しく認識できるからこそ、もっと成長しようと努力を続けられるのだそうです。本当の自信は、できる自分も、できない自分を知っていること。しかし、自信と慢心は紙一重と言います。つい慢心してしまう。自分が気づかないうちに慢心に変わっていることがあります。一流アスリートほど、優勝インタビューなどで「うまくいったのは自分の力だけではない、みんなのおかげ」だとコメントをしていますが、そこにあえて意識を向けていくことがいちばん大事なのかもしれません。

カテゴリー : 働きがい・やりがいの向上

2024 年 06 月 04 日 10:48

100-1=0

 帝国ホテルに入社すると、新入社員はまず、「100-1=0」というサービスの心得を教わるそうです。
 これは、社長、会長を歴任された藤居寛氏の教えとされています。
 ホテルでは、お客様をドアボーイがお迎えし、フロントでチェックイン。そして、部屋に案内され、滞在中レストランで朝食を食べたり、ロビーでくつろぐ。帰りに精算し、最後にまたドアボーイがお見送りをします。滞在中にいろんなスタッフからおもてなしを受け、こうした一連の体験を通して、良ければ「またこのホテルに来よう」と思います。
 しかし、この体験中に、いろいろな人がどのような素晴らしい対応をしても、たった一人でも、ミスを起こしてしまえば、すべてが台無しになってしまう。たったひとつのミスで、「もう、このホテルを利用しない」ということにもつながることもある。「100-1は99でなく、0」なのだ。帝国ホテルはこの意識を最も大切にしている。そう新人に教えるそうです。
 確かに、私が街のレストランで食事をするという時でも、いくらいい食事をし、いいサービスを受けて満足していたとしても、帰ろうとした時に、最後のレジ対応で嫌な気持ちになったとすれば、そのレストラン全体の印象が悪くなります。場合によっては、「もう利用しない」と思うかもしれません。

 普通「100-1=99」と考えます。1つのミスくらい大きな影響はない。例え一人のお客様を逃がしたところで、そんなに大したことはないと考えがちです。これは、高いブランドを誇る帝国ホテルだから通用することだ。顧客の期待も大きく、小さなミスでも「あの帝国ホテルが・・・」ということになる。そういう高級ホテルだから「100-1=0」の高い意識が必要なので、私たちには関係ないと考える人もいるかもしれません。

 ただ、最近でも、例えば、チェーン展開している企業のたった1店のトラブルが全国に影響したり、バス会社のたったひとつの事故が倒産まで追い込まれることがあるように、たった一人が「まあいいか」と手を抜いた結果が、マスコミやSNSで広がり、経営にまで大きな影響を与える時代です。「あの企業はとてもいいサービスをしてくれる」という期待でお客様が来る。それは、それまでの期間に、いろんな先輩が積み上げてきた信用・信頼があるからこそ。それが一気に崩れてしまうのがマイナス1の怖さ。その陰にあるのが、自分くらいいいか、これくらいいいかというような「100-1=99」の意識なのでしょうか。

 しかし、そうはいっても、ミスは誰でも犯してしまうことがある。その時に99人がその一人を見捨てず、みんなでカバーしていくことも大事なことかもしれません。
 いずれにしても「100-1=0」はプロの仕事としての基本的な姿勢。サービス業のみならず、すべての業種に必要な姿勢だと思います。

カテゴリー : 「いい会社」が実践する理念経営 これからの時代の人財育成

2024 年 05 月 27 日 16:25

ファンを生み続ける理念

 東京ディズニーランドが出来て今年で、41年目になるそうですが、創業当時からファンを増やし続け、素晴らしい事業を展開されています。各地に様々なアミューズメント施設が生まれる中で、なぜ、ディズニーランドが成長し続けられたのか。先日、ディズニーランドで長く働く方から、現場から見たファン創造の理由を、直接伺う機会がありました。
 ファンを魅了し続ける理由は、常に新しいアトラクションやショーを提供し続けることだと言われることもありますが、その方は、それもあるが、やはり、パークで働くキャストたちのおもてなしの気持ちが、「また行きたい」という気持ちにつながっている、と言われていました。
 確かに、乗り物を提供しているだけでは、あのような世界は作り出せないでしょう。ディズニーは当初から、スタッフは従業員ではなく、映画の中にいるキャストであって、映画の世界に来るゲストに幸せになってもらうことが使命であるという教育を徹底されています。
 清掃スタッフには、「あなたの仕事は掃除」ではなく、「ハピネスを創造する」のが仕事だと教える。ただ清掃するなら効率よくやればいい。しかし、あえてゲストと会話をしたり、楽しませることをやろうとするのがディズニーのスタッフ。マニュアル通りではなく、その人に合わせて自分の行動を考える。すべてのスタッフが、いかに喜んでもらえるか、いかに楽しんでもらえるかを考え続けているからこそ、あの雰囲気が生まれています。ウォルト・ディズニーさんが創業時に描いた「青空をバックにした大きなステージで3次元の映画を全員で作り出していく」という思想が未だに根付いているようです。
 ディズニーは、キャストに、自分で考え、主体的に行動しようと伝えていますが、ただ、何もかも自由でよいということではないようです。その行動が常に理念「ハピネスの創造」につながっていることが求めらるそうです。
 例えば、ショーのダンスのスタッフは、練習を重ねたプロ。その気になれば、難易度の高いダンスができる人ばかりだそうです。しかし、決してそういうダンスはしない。ディズニーがめざしているのは、家族が楽しめるファミリーエンターテインメント。だから、ダンスは、ゲストが一緒に踊れるような平易なダンスであるべきだと話し合い、あえて簡単なダンスにしているのだとか。平易なダンスにはショーで事故がないようにという意味もあるそうですが、とにかく「ハピネスの創造」への想いが全員に浸透しているようです。
 理念という枠の中で自由に考え、自由に行動する。そのハピネスの創造の行為が、お客様を幸せにし、それを見た自分のハピネスに戻ってくる。理念を実感するために、トレーナーは、キャストにゲストの顔をよく観察してみるようにというように伝えているそうです。
 
 40年変わらずファンが生まれる背景にある理念に対する強いこだわり。それが顧客に伝わり、「また行きたい」という気持ちをつくる。理念へのぶれない思いが、永続的な成長の原動力であることは、どの企業も同じかもしれません。

カテゴリー : 「いい会社」が実践する理念経営 素晴らしい組織風土づくり

2024 年 05 月 20 日 15:33

伸び続ける組織の共通点

 先日、ある全国組織の中で、成績優秀な組織を表彰する式典に参加する機会がありました。この業界は、構造的な問題や少子高齢化の逆風を受け、業界全体の業績が下がり続ける中で、3つの組織が昨年に引き続き成績を上げ続けられ、今年度も最優秀組織として表彰台に上がっておられました。
 扱う商品は全国同じ、その地域だけが特別景気が良い訳でもない。特別な支援がある訳でもなく、やっている施策は同じ。同じ風を受けながら、なぜ、その組織だけが継続的に成績が良いだろうと、その取り組みの発表を聞いていると、その3つの組織に共通点を感じることがありました。
 ひとつは、販売の姿勢。やり方はどの組織も同じように見えるのですが、その3つの組織はその根底に「徹底的にお客様に寄り添おう」という姿勢を持っておられます。成果を出そうと無理な販売はしない。その代わりにお客様のことを親身に考え、話を聞く。そうした活動を続けることでお客様が、その組織を「私の頼りになる身近な存在」として認識されるようになり、今、いろんな相談をされる関係になっているそうです。売ろうと急がないことが、結果として売れるようになっている。そんな共通点がありました。
 そして、もうひとつの共通点が、働きがいのある組織づくりに長年取り組んでこられていること。意見が言いやすい職場をつくる、主体的に働ける環境をつくるなど、社員がいきいき働ける職場にしようと、長い年月をかけて取り組み続けておられました。ある年だけ業績が良いということではなく、ずっと業績が良いというのは、やはり、こうした土台がしっかりとしているからでしょうか。3つの組織のトップは、やはりCS・ESの向上が大事だと、同じ言葉を語られていました。
 今やCSもESも市民権を得ていますが、昔は、そんなことよりも業績だ、もっと販売をしてこいという時代でした。顧客の声を聞く、寄り添う活動など、そんなことをして売れる訳がないとバカにされていたこともあったはず。社員の働きがいなども見向きもされない時もありました。そんな風潮の中で、すぐに結果に結びつかない活動をするというのは、そう簡単ではなかったはず。しかし、そこを信じて続けることで、ようやく今、成果が出るようなる。ブレずに続けていくことが何よりも大事なことなだと感じる発表でした。
 よい土の中で、よい作物が育っていくように、例え、遠回りでも良い土壌をつくる。良い結果は急いで得るものではないのかもしれません。

カテゴリー : 素晴らしい組織風土づくり

2024 年 05 月 14 日 11:11

目的思考

 新入社員が、最初に身に付けるべき仕事の姿勢のひとつに、目的思考というものがあると思います。
 目的思考とは、仕事に取り掛かる前に、「この仕事は何のためにやるのか」と目的と意味を理解すること、そして次に「どうやるか」という手段を考えることです。私も、若い時に、この大切さを先輩から徹底して教わりました。そもそも、仕事をする時に、なぜやるのかを自分が納得していなければ、単なる作業になってしまいます。ただ「部屋を片付けろ」と言われても、何のために片付けるのかがわからなければ、工夫のしようがありません。意味がわからずする仕事ほどやる気がなくなるものはありません。
 しかし、今の時代は、「どうすればいいか」というやり方や手段から入る人も多くいるようです。とにかく、あれこれ考えず、上から言われたことをやる。頭の中は「どうやるか」だけ。手段思考というのでしょうか、仕事を処理するロボットのように働く人もいます。確かに仕事は早く終わるのでしょうが、そもそも、目的を理解していなければ、良い仕事ができたのか、うまくいったのかもわかりません。もっと、良いやり方があったのではないかと反省することもない。処理型仕事を繰り返しているだけでは、人間らしく考える力がなくなってしまいます。きっとこうした仕事の中では、新たなイノベーションも起きにくいでしょう。

 「そもそも、この仕事は誰の為にやるのか、世の中にどのような結果を生むのか。」そんなことは、いちいち考えなくても仕事はできるのかもしれません。ただ、自分の仕事が、例え、途中段階の仕事であったとしても、仕事の最終目的がわかっていれば、前工程や後工程の仕事にも関心が湧くはずですし、自分の役割もよりわかる。そもそも、仕事の意義・使命が腹に落ちれば、やりがいも生まれます。

 作業をやる、処理をするならAIがやる時代。目的思考はますます重要になってくると思うのですが、「そもそも、なぜこの仕事をやるんですか?」と、上司に聞いた時、もしかすると、上司の人の中にも、ちゃんと答えられなくなっているのかもしれません。「上がやれと言ってるから、つべこべ言わずやれ」。そんな理由をいわれても、それでは納得できません。
今日、自分のやるその仕事は、「そもそも、なぜやるのか、何のためにやるのか」。毎朝、自分に問うことが大事なのかもしれません。

カテゴリー : これからの時代の人財育成

2024 年 05 月 07 日 17:06

「つながり」の力

 先日、4年ぶりに全社員で社員旅行に行ってきました。
 普段は忙しい仕事の中でなかなかゆっくりと過ごすことができない仲間が集まって、一緒に過ごす。参加した社員も口々に行けて良かったと言っていましたが、精神的も物理的にも、仕事から離れて、職場の仲間と接する機会は、普段、あまり会話がない社員同士の交流のきっかけになり、いつも同じ職場で働いてもの同士にとっても、日頃話さないことが話題になったり、同じ体験をすることで、いいコミュニケーションの場になったようです。最近は、いろんな打ち合わせがオンラインになって、なかなか人と会う機会がなくなってきましたが、改めて、こういう場の大切さを感じた時間でした。
 しかし、社員旅行を実施する企業は年々少なくなっているようです。実施しようとしても、行きたくないという人も増えているのかもしれません。ただ、改めて、こうした場を体験すると、こうした一見無駄と思えるような場、業務にまったく関係のない時間というものは、組織には大切な気がします。
 こうした社員旅行が、組織にどのような影響を与えるのかわかりませんが、お互いがわかりあっていない組織より、お互いが親密で仲が良い組織の方が、よい結果が生まれるというのは感覚でわかります。
 幸福学の研究者の報告でも、人と人の良好な人間関係、つまり「つながり」は、個人の幸福感と強く関係があると言われています。仲が良い仲間がいると精神的な負荷が高い状況でも、人は前向きな気持ちでいることができる。良いつながりは、精神的な安心を与えてくれます。また、別の研究では、必要な時に手助けや励ましをしてくれる親密な関係がある時は、個人の新たな挑戦や発見、成長を促すことが指摘されているそうです。確かに、自分の傍に、相談に乗ってくれる仲間や励ましてくれる仲間がいると、失敗しても大丈夫、やってみようという気になります。地域社会でも、災害の時に大事になるのが、近隣同士の「つながり」だと言われていますが、人間にとって、良好な人間関係は生きていく上で不可欠な要素なのでしょうか。
 時間を短縮する、無駄を省くという風潮の中で、いろんなことが取りやめになったり、なくなってきましたが、もしかすると、私たちは大事なものを失っているのかもしれません。

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カテゴリー : BLOCKS 素晴らしい組織風土づくり

2024 年 04 月 30 日 15:44

売らないお店

 自社の商品を、お客様が欲しいと言われたら、その商品を販売するというのは当然です。しかし、必ずしもそうしないというお店もあります。
 以前、ある過疎化の進む田舎町の自動車整備のお店を取材させていただいたことがあります。その店の店主はご主人を亡くされ、その後を受け継いで経営をしているお婆さん。お婆さんが営業。息子が整備を担当する小さなお店です。しかし、何故か、その地域の中で、ナンバーワンの販売台数を誇るお店というので取材をさせていただきました。取材中も、地域のお客様が野菜を届けてくれるなど、その店が、いかに地域の人から信頼されているということがわかります。その日、たまたま、近所の若いご夫婦が買い替えの相談にやってこられました。新しい車を買いたいとお婆さんに相談されたのですが、そのお婆さんは売ろうとしません。「あなたたちはこれから、子育てでお金もいる。今の車はまだ乗れるのだから、買い替えをせず、乗り継いだらどうか」と言われました。自分の孫に話すように、その夫婦の立場になって親身になって考えてくれる姿を見て、私は、「地域ナンバーワンの理由は、これなんだ」と思いました。
 過疎化で人口が減少する田舎町。そこに新規客はほとんどいません。その中で、長期的に繁栄していくためには、信頼してくれるお客様がどれだけいるか。車の販売だけでなく、整備や保険、いろんなことに応えていくことで商売が成り立っていく商圏です。いちばんの財産は既存顧客です。昔、新聞の業界で、無理な勧誘が話題になりましたが、強引な販売で一時的な業績が上がったものの、逆に、信頼を失い、顧客が離れてしまったということがありましたが、この店の商売は、まさにその逆を行くようでした。
 どんなにお客様が欲しいと言っても、それでお客様が不幸せになるようなことでは商人として申し訳ない。地域には、このような親身なお店がまだまだたくさんありますが、信頼が大事になるこれからの時代には、こうしたお店の経営姿勢を、私たちは学ぶ必要があるのかもしれません。
 松下幸之助さんは、「無理に売るな。客の好むものも売るな。客のためになるものを売れ。」という言葉を残しておられますが、この原則は昔も今も変わらない気がします。

カテゴリー : お客様満足・感動の向上

2024 年 04 月 24 日 16:12

失敗を恐れない環境

 失敗を恐れるな。若い人にこのような言葉をかけることがあります。
 自分自身も、挑戦や失敗から大事なことを学び、成長してきたからこそ、失敗を恐れずにやってほしいと思う。そう感じている先輩はたくさんいます。そして、会社においても、働く人が失敗を恐れて挑戦しなくなれば、発展も成長もない。失敗を恐れず挑戦していくことは、個人にとっても組織にとっても大切です。
 だから、失敗を恐れずに行動していこう。これは誰もが理屈ではわかります。しかし、いざ、行動しようと思うとつい恐れが出てきてしまう。失敗したらどうしよう、いろんな人に迷惑をかけたらどうしよう。頭でわかっていても、なかなか行動に移せない。迷惑をかけてしまうくらいならやらないでおこうと、失敗への怖さや面倒臭さが、つい、やらない理由を作ってしまいます。失敗を恐れるなという背景には、失敗を恐れてしまう理由がある気がします。

 失敗が怖くない、失敗を恐れなくなる環境とは、どのような場所なのでしょうか?
 そもそもの話ですが、人が挑戦しようとする気持ちの中には、その人が「これはどうしてもやりたい」というものがあるはずです。自分の中で「どうしてもやってみたい」という気持ちが強くなれば、人に言われなくても、挑戦するはず。先輩の「失敗を恐れるな」という言葉の前には、「君がやりたいなら」という言葉がついているはずです。やりたいこと、こうしていきたいという気持ちがなければ、そもそも、意味がありません。
 しかし、そんな気持ちを持っていたとしても、実際に挑戦しようとする時は不安になる。その中で、「何かあっても、私たちがいるからやってみたら」と背中を押してくれる環境であれば、不安は少なくなるはず。失敗の恐れがなくなるには、仲間の存在は大事。協力してくれる人がいる、いないは大きな差だと思います。

 原点にやりたいという意思があること、そして、その意思を応援してくれる仲間がいることが、失敗を恐れなくなる環境と言えるかもしれません。失敗を恐れずに挑戦できる職場とは、同じゴールを目指している仲間がいる職場とも言えるかもしれません。
 自分のやりたいことと会社の方向性が一致している場所。みんなが同じ目的に向かって進んでいると同じ仲間だと思える場所。同じゴールを目指す仲間だからこそ、仲間のチャレンジも応援したくなります。

 そう考えると、リーダーの仕事は、単に「失敗を恐れるな」と正論を述べることではなく、失敗が怖くなくなる場所、理念に共感する同じ思いを持って働く仲間がいる環境をつくっていくことなのかもしれません。

カテゴリー : 素晴らしい組織風土づくり

2024 年 04 月 16 日 17:27

ファンを増やすには?

 どの企業にも常連客・固定客と呼ばれるような顧客がいます。
 そうしたお客様は、「あの店は良いね」と口コミや評判を生み出してくれるだけでなく、新しい顧客も紹介してくださる。ロイヤルカスタマーや生涯顧客など、いろいろな呼び方がありますが、お店のサービスや商品に思い入れがあり、ずっと通い続けてくれるようなお客様は、継続的に購入をしていただく以上に、「頑張れよ」と精神的にも支えとなる、まさに「応援団」。もし、商品やサービスが悪くなれば、「これじゃダメだ」と時には厳しいことも言ってくださるのも、こうしたお客様。こうしたファンに支えられるからこそ、お店や企業が継続できています。

 商道では、江戸時代から、お得意先、常連客を大切にせよと言われていますが、今後、日本中で加速する人口減少時代になればなるほど、こうした「ファン」が大事になる。ファンがたくさんいる店は、どんな時代になったとしても、輝き続けるような気がします。

 しかし、どうすればファンを作っていけるのか?と問われると、そう簡単に応えることはできません。
 そもそも、好きになるかどうかは相手が決めること。こちらが、どれだけ「ファンになってください」と頼んでも相手が好きになってくださらなければ、ファンは増えません。例えば、来店の度にスタンプを押す、割引をするというような仕掛けをしたら、ファンは増えるのかというと、多少好きになってくれるのかもしれませんが、「お得」というだけで、その店が好きになるというものではなさそうです。

 では、どうすればファンをつくれるのか。
 サッカーや野球、芸能には熱狂的なファンがいます。そんなファンを見ていると、そのチームが好きになるかどうかは、最後は感動をもらえるかどうかで決まるのではないかと思います。そのチームの選手が一生懸命にプレーし、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。その姿に感動し「好き」という感情が生まれる。高いパフォーマンスがファンをつくっていく要素のような気がします。
 飲食店でも同じかもしれません。その店は、いつもプロとして素晴らしい料理を出してくれる、素晴らしいサービスを提供してくれる。どんな商売でも、プロとして真剣に臨み、優れたパフォーマンスを出していくことがファンを生み出す原点にあるのではないでしょうか。
 販促や仕掛けなどでは、ファンはつくれない。ひたむきに真剣に商売に取り組むこと、お客様に感動してもらえる仕事をすることが究極のファンづくりだとすれば、ファンづくりに近道はなさそうです。

カテゴリー : お客様満足・感動の向上

2024 年 04 月 10 日 16:00

寄り添う力

 世の中にはいろいろな営業があります。どのような業界であっても、最後に成果を出し続けられる営業とは、お客様から好かれる人。どんな時も、お客様の気持ちに寄り添ってくれる人ではないでしょうか。

 昔、日本一ベンツを売ると言われる人の話を伺ったことがありますが、その人は、もしもお客様がベンツ以外の車を欲しがっておられる時は、たとえ自分の利益にならなくても、一緒にその車を探して他ブランドの営業を紹介する。売り手が不利になる情報でも、それがお客様の為になるならば、しっかりとそれをお伝えする。お客様の立場にたって考え、行動するからこそ、信頼され、日本一の販売を続けておられるそうです。

 「寄り添う」という言葉の本来の意味は、物に身体を寄せる行為のことをいうそうですが、私たちが日常的に使う「寄り添う」とは、相手の心に寄り添う、気持ちを理解するというようなことだと思います。
 もちろん、電話をすればすぐに駆け付けてくれるという物理的なスピードも大切だと思いますが、「この人は自分のことをわかっていてくれる、自分の気持ちをいつも優先して考えてくれる」と思える人の存在は、やはり信頼と呼べます。

 私もいつも寄り添ってくれる営業さんを知っています。そんな寄り添える人には共通点を感じます。
 寄り添える人というのは、やはり、まず人の話を聞く。根底に「人の役立ちたい」という思いがあるから、聞こうという姿勢を感じます。悩みがあったり、辛い経験をしたときに、とにかく「誰かに話を聞いてほしい」と思いますが、冷静なアドバイスより、とにかく、話を聞いてくれるだけでもうれしいものです。

 また、寄り添える人は、相手が望んでいることに応えようとしてくれます。日本一ベンツを売る人もそうですが、そういう人は、「この人のために自分は何ができるだろう」と考える。もちろん、できないこともあり、すべてに応えることはできないですが、結果として応えられなくても、そうやって考えてくれるだけで嬉しい。
 その人が何を望んでいるのかを考え、できる範囲で協力する。寄り添うということの中には、こんな姿勢も含まれているような気がします。

 信頼は、簡単に築けるものではないですが、確実に言えるのは、やはり、信頼は、こうしたひとつひとつの商談の中の小さな言動の中で生まれてくる。こんな積み重ねが「何かあればあの人に相談しよう」ということになる。成果を出し続ける営業ほど、寄り添い力が高いのかもしれません。

 「真に優秀な人というのは、優しさに秀でた人である。」
 以前、優秀の言葉の定義を、こんな風な解釈で話してくれた方がいます。単に仕事が早いとか、ミスなくできるとか、的確に仕事をすることが優秀な人ではなく、優しさや思いやりにあふれている人が優秀な人。
 人口減少の中で顧客からの信頼が企業の長期的な発展の基盤になるとすれば「寄り添える力」がますます大事になってくるのかもしれません。

カテゴリー : 素晴らしい組織風土づくり

2024 年 04 月 02 日 14:05

息づく行動指針

 「こんな場合は何をすればいいのか。」
 「どちらを選べばよいのか。」
 仕事をしていく上では、様々な判断が求められますが、そうした時の指針となるのが行動指針です。
 会社が掲げるミッションやビジョンを実現していくために、こういう行動を大切にしていこうと、どの組織にもある判断軸。言葉として明文化されている会社もあれば、言葉になっていなくても、先輩の行動が伝承されたり、文化として伝わっている会社もあると思います。

 以前、ある会社を訪問した時、訪問の趣旨を伝え、受付で待っている時のことです。受付の前を通る社員の人が待っている私の様子をみて、口々に「ご用件はお伺いしていますか?何かお困りのことはございませんか」と声をかけてくださる会社がありました。
 きっと、その会社には、昔から、誰が困っていたら自分から解決しようというような精神があり、文化として受け継がれているのでしょう。マニュアル的ではなく、気遣いをしてくれているという感じがしていましたので、この会社では、受付のお客様だけでなく、仕事の場面でも、こうした行動をされているはず。行動指針が組織の中に息づいているというのはこういうことなのかと感動したことがあります。
 「あの会社は、誰にあたってもいいね」と評価される会社がありますが、働く人たちの判断軸が揃っていると顧客からの信頼感も高まっていくはずです。

 判断軸が揃う。例えば、顧客との対応の時に、ある人は面倒だからやめておこうと判断し、ある人は、面倒だけどやろうと判断する。組織の中に、お客様に喜ばれることを優先するという指針が浸透していれば、みんなが前者の判断になり、浸透していなければ、個々に違う対応となる。ひとつの行動としてみれば、ちょっとの差なのかもしれませんが、もし、組織の中でどの人もどの人も、面倒なことを優先して動いてくれたとすれば、それは顧客にとって大きな感動になるはず。「あの会社はみんながいい対応をしてくれる」という評価は、組織としての最高の誉め言葉です。理念が浸透するということは、働く人の「判断軸」が揃っていくことなのかもしれません。

 ただ、行動指針はどうやって伝えていけばいいのか。判断軸はどうやって人に伝えられるのか。
 言葉を作り、掲げておけば伝わるのかというと、そう簡単なことではないはず。会社がこうした行動をしようと言ったところで、実際の先輩たちの行動が違っていれば後輩には伝わる訳はありません。先輩にしても、上司や幹部が実践していなければ、「こんなのはお題目だ」と思うに違いありません。
行動指針は、言葉だけでは伝わらない。上から良い背中を見せていく。行動指針が浸透するというのは、こういう実践の積み重ねなのかもしれません。
 新人が入社するこの季節。先輩として後輩にどんな背中を見せていくか、問われるところです。

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カテゴリー : 素晴らしい組織風土づくり

2024 年 03 月 27 日 09:43

お客様が本当にほしいものは

 先日、ある仕事で地方の化粧品専門店のお店を見学していた時に、一人の高齢の女性がお店に来店され、化粧品を買って帰られました。高齢の方も美に対する気持ちは若い人と一緒なんだと思い、対応された販売スタッフの方にお伺いすると、その方は92歳。初めて来店される新規のお客様でした。買われた化粧品は、そのメーカーが50年前に発売したブランドでしたが20年前に販売が終了。昨年復活したブランドでした。自分が若い時に使っていた化粧品が復活したことを知り、懐かしくなって買いに来られたそうです。
 地方都市は人口減少や高齢化が進む時代。小売業の存続が難しくなってくると言われていますが、高齢化の時代でも、お客様にしっかりと価値が伝わりさえすれば、まだまだ売れていくのかもしれない。そんなことを考えていました。

 「ドリルを買う人がほしいのは穴である」。これは1968年に出版された「マーケティング発想法」(セオドア・レビッド教授)の中に出てくる言葉ですが、マーケティングの世界では昔から有名な言葉です。ドリルを買う人は、ドリルという製品そのものでなく、その製品によってもたらされる結果、つまり「価値」がほしい。だから物を売るのではなく、それがどのような価値を提供するのか、その価値を提供することが大事だという話です。
 ドリルではなく、ほしいのは穴。この、ご高齢者でいえば、欲しかったのは化粧品ではなく、いきいきと張りのある幸せな暮らし。ファミリーレストランでいえば、食事を食べに来られているのではなく、本当にほしいのは家族との幸せな時間。消費者は、物そのものでなく、物からもたらされる価値(幸せ)がほしいのだと、いうことだと思います。

 しかし、売る側が「物」を売っていると考えていると、つい「ドリル」の方を紹介しようとしてしまう。いかに新しい機能があるか、どれくらいのパワーがあるか。そこに消費者とのギャップが生まれる。本当に欲しいのは「穴」ならば、提案すべきはその製品を使ってどのような幸せが得られるかといことであり、売るだけでなく、穴をあける作業の相談に乗ったり、穴をあけた先にある「お困りごと」に応えていくサービスを提供していけば、さらに喜ばれるのかもしれません。

 少子高齢化で物が売れないという声をよく聞きますが、そういう時代になれば、地域で暮らす人も困ることが増えていく。逆に新たな困りごと=新しい「穴」も増えていくとも考えられます。「穴」、お客様が本当にほしいものに目を向けていくことが大事になっているのかもしれません。

カテゴリー : これからの時代の経営のあり方

2024 年 03 月 21 日 11:00

笑顔の力

 顧客満足、ファンづくりの話をしている時、ある経営者が「単純なことかもしれないが、お客様にいかに安心してもらうことがファンづくりの基本。安心感をつくるのが笑顔だと思う」というお話をされていました。

 笑顔にはどのような力があるのでしょうか。
 初めての場所に行く。慣れない場所に行く時に、誰もが不安になります。病気になって病院に行く時などは、そもそも身体に不安があるので余計に不安が増します。そんな不安な時に誰かが笑顔で迎えてくれると少しホッとする。そんな体験は誰もが持っていると思います。
 確かに「笑顔」には人を安心させる効果があります。ムスッとした表情で働いている人より、笑顔で働いている人を選んで話しかけようと思うのも笑顔の力。赤ちゃんの笑顔をみると誰もが笑顔になるように、笑顔は伝染し、ポジティブにさせる力もある。ある高齢者の方が、不安を抱えながら病院に通っている時に、受付の人がいつも笑顔で迎えてくれたから、通い続けることができたというお話を聞いたことがありますが、笑顔が人の勇気にもなる。そう考えると、笑顔は単なる表情以上の力があります。

 どんなに商品が良くても、その店のスタッフに笑顔がないお店には何となく行きたくなくなるのは、どこか不安な気持ちになるからでしょう。店員さんが笑顔で迎えてくれるとホッとする。ホッとすると話しかけやすくなる。話しかけていると、相談をしたくなる。相談に乗ってくれると信頼する。信頼するとその人から買いたくなる。昔から、お店では笑顔が大事だと言われていますが、品揃えや店構え以上に、そんな小さなことがいちばん大事なことなのかもしれません。

 だた、問題は、いつも笑顔でいること。それがなかなか難しい。
 接客のプロは、朝起きたときに鏡の前で自分自身に笑顔を向けるということを習慣にされているそうですが、笑顔で始まると一日がポジティブな気持ちになるということは、心理学でも言われているそうです。
 そう考えると、お客様の前だけでなく、出社する時も、仲間と挨拶する時も、意識して笑顔で挨拶をするのは大事な習慣です。人の笑顔につられて笑顔になるのなら、自分がまず笑顔でいる。すると相手が笑顔になって、また自分も楽しくなる。多少つくり笑顔と言われても、笑顔スタートが大事なのかもしれません。

 自分自身に笑顔を向けると、自己価値を高める効果があり、自己肯定感が高まっていくそうです。当然、他人が笑顔でいてくれると、自分を受け入れられていると感じて、また自己肯定感が高まる。笑顔は心や健康にも影響が大きいもの。笑顔は顧客だけでなく、働く人の幸せや健康も高めていくのかもしれません。
 たかが笑顔、されど笑顔ですね。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢

2024 年 03 月 12 日 15:03

社員が幸せな会社は成長する

 今、世界各国で「幸せ」について研究されるようになり、何が幸せなのか、幸せに何が関係するのかということが少しずつわかってきているそうです。例えば、「金持ちになれば幸せになる」ということが昔から言われていましたが、幸せの研究では必ずしもお金と幸せは相関しないということもわかっているそうです。もちろんある程度のお金がなければ幸せではありませんが、いくらお金があっても憎しみ合って、幸せを感じていない人もいます。それよりも、家族や友人の関係が良いなど、良好な人間関係を築いている人が幸せを感じることが多い。「良い人間関係」が幸せと結びつくという結果もあるそうです。経営においても、幸せな社員が多い会社は、そうでない会社と比べて生産性が高く、業績も良いということも証拠が出てきているようです。先日も、ある会社に訪問させていただいたのですが、社内に入るととても良い雰囲気を感じました。お互いが笑顔で話され、一瞬で社内の人間関係の良さが伝わってきます。こうした雰囲気は社外にも伝わっているのでしょう。実際に、その会社は、お客様に喜ばれ成長を続けておられます。
 何が幸せか。研究結果などでみると、何か新しい情報のように聞こえますが、我々は既にわかっていることなのかもしれません。私のまわりにも幸せそうな人がいますが、幸せを感じている人は、やはり前向きで、何事にも感謝して、ポジティブな気持ちをもっている。家族関係や友人関係が良い時は、仕事も前向きにできる。会社も、みんなが笑顔で働いている時は業績もあがるけど、ギスギスしている時は結果も悪い。幸せがよい結果につながっていく感覚は経験としてもわかります。

 では、どうすれば、幸せになれるのか。何かを手に入れたり、ご馳走を食べると確かに「幸せ」を感じます。つい、こうしたことが毎日続けば幸せが手に入るような気がします。しかし、安い居酒屋でいい仲間と過ごす、いい時間という幸せも知っています。お金では買えない幸せがあるのも私たちは知っています。
 健康でいること、家族と良い関係であること、いい仲間といい関係で働けていると感じること。自分の仕事に誇りを感じられること。その瞬間の幸せをハピネスと呼び、後者のようにしみじみと感じる幸せをウェルビーイングと呼ぶそうですが、この幸せは、長続きします。
 いい会社にあふれているのは、後者のような幸せなのでしょう。「幸せになろう」ではなく、「今が幸せだ」を感じている人だからこそ、成長していくのかもしれません。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢

2024 年 03 月 05 日 15:10

変わらないために、変わり続ける

 人口減少が進む地方都市。お客様が減り続けるだけでなく、働き手も少なくなり、商売を続けていくことが以前より難しくなっています。廃業を迫られる店も多く、今後の経営のあるべき姿を模索するお店は少なくありません。そんな時代の中でどうやって業績を伸ばしていけるのか。先日、ある地方都市の元気な化粧品専門店を訪問させていただきました。

 化粧品。昭和の時代は、商店街の専門店や百貨店の化粧品売り場が花形。高級化粧品をカウンセリング販売で売るという商売でした。しかし、そんな接客が嫌だ。手軽に買いたいというニーズが高くなるにつれ、駅に隣接するショッピングセンターのお店やドラッグストア、またネットでの購買が増え、平成、令和の時代になると、地方の化粧品専門店は衰退の一途をたどります。取材したそのお店も例外ではなく、店の周りの商店街は寂れる一方、人通りもほとんどない状態で、10年前はなかなか業績が伸びずにいたそうです。そこに、外で修行をしていた長男が戻り、3代目として経営に参加するようになります。そこから10年。2店舗だったお店は今5店舗にも拡大し、業績は大きく回復したそうです。

 若い経営者が取り組んだことは、親の商売の良い面を活かし、お店の特徴を発揮していくこと。昔からカウンセリングが得意な本店は、さらにそこに磨きをかける。沢山あった商品を高級品ひとつに絞りこみ、お客様がゆっくりと過ごせるラウンジスタイルのお店に。ショッピングセンターにある2号店は、接客されず気軽に買いたいという若い客層のニーズも取り込みながら、お肌の悩みに応える相談の場も作り、幅広いファンに応えるお店に変える。得意を活かしながらも、変化に合わせてお店を変化させていきました。

 「商売は変化に対応しろ」というと昔から言われ続けていること。教科書にも出てきます。しかし、保守的な地域都市では、新しい挑戦することはなかなかできないことだとも聞きます。「変えよう」という息子と「変えたくない」という親子の確執も時々聞かれます。
 しかし、この化粧品専門店はスムーズに変えることができたそうです。なぜ出来たのか。80歳になる経営者の奥様に伺いました。その答えは、「自分の時代も、やはり、時代に合わせた変化に挑戦してきたからだろう」ということでした。昭和の時代も、「お客様を何よりも大事にする」という創業者の教えは大切に守ってきた。しかし、それだけでは商売は続かないのも痛感し、時代の変化、お客様のニーズに合わせて商品や売り方は柔軟に変えてきた。自分たちが挑戦を続けてきたから、息子の気持ちがわかると言われました。

 このお話を聞いて、創業何百年続く「虎屋」さんの経営も同じ思想があるということを思い出しましたが、「老舗企業」というと、一見すると古いものだけを大切にする保守的な経営に見えますが、「変化に対して変えるべきことは果敢に変えていく」というDNAも大事にする。「変わらないものを大切にしていきたいからこそ、変わり続ける」。これからの時代にいちばん大事な姿勢のような気がします。

カテゴリー : 素晴らしい組織風土づくり

2024 年 02 月 27 日 17:36

外発と内発の動機付け

 人のやる気を高めるためにインセンティブを与えるという方法があります。10件やれば1万円など、「達成すれば報酬がもらえる」となれば、きっと誰もが頑張って働くようになる。昔も今もお金は人を動かす動機になります。逆に、達成しないと上司から叱られたり、罰を受けるという状況をつくれば、人はそうならないために頑張るということもあります。
 ただ、こうやって外側から人を動かそうとすることは確かに強力で効果的ですが、半面マイナス面もあります。例えば、報酬が出る時はやるけれど、出なくなればやらなくなる。罰が怖いと、それを避けるために、嘘をついたり、ごまかそうと、不正をはたらく人も出てきます。報酬を得る為に無理な販売をしたり、上司の怒りや罰を避けたいが故に、倫理に反する行動をしてしまう。昨今の不祥事の多くは、こうしたことが原因のひとつになっているようにも思えます。
 しかし、だから、これからは内発的動機付けだと言われても、そもそも内発の動機ですから、好きでやっていることなら勝手に行動しますが、好きでないことや興味のないことはなかなかやらないのが人の常。さぼりたくなることもあります。そうするとまた報酬や罰で動かしたくなる。長い間、人間の世界はこの間で行き来しているのかもしれません。

 ただ、本当は、結果に対する報酬をもらう為でもなく、罰を避けるためでもなく、純粋にその仕事が面白く、やりがいを感じながら働くことがいいということは誰もが理想だと思っているはず。やりたいこと、好きなことに取り組めることたら、何よりも幸せだとわかっているけれどなかなかそう理想通りにはいかないのが現実です。時には外発的な動機付けが必要なこともある。嫌だった仕事が、上司に激励され頑張る中で、好きになることなども、ざらにあります。外発も内発も、どちらがいいということではなさそうです。
 ただ、社員の人たちがいきいきと内発的動機で働いている会社はどんどん増え、そんな会社で働きたいと思う人も増えているのは確かです。「仕事は好きとか嫌いじゃない」と外発的動機付けで、厳しく怒られならがやってきた世代にとっては、なかなか馴染めないのかもしれませんが、後何年か経てば、こんな動機付けはどんどん古くなっていくような気もします。嫌なことを無理にやる、やらせる世界ではなく、やりたいこと、好きなことをやって成果を出す。こうした働き方がスタンダードになるのはいつでしょうか。

カテゴリー : いきいき働くための仕事の姿勢

2024 年 02 月 20 日 15:36

若手に教えるもの、伝えるもの

 どうすれば、若手を育てられるのか。今、若手社員の育成に悩んでいる方が多いと聞きます。世の中全体の人手不足の中で、特に伝統工芸や建設、料理などの職人の世界でも人の育成が課題だと言われています。
 以前の職人の世界は、「技術は盗んで覚えろ」というような風潮があり、親方は教えず、若手は下積み仕事を続けながら、親方のやり方を見ながら覚えるという教育が一般的でした。しかし、それでは今の時代に合わない。優しく指導しなければ人が辞めてしまう時代です。しかし、だからといって、「こうしろ、ああしろ」と手取り足取り、やり方ばかりを教えても、本物の職人には育たない。一人前の職人を育てるということは、本当に大きな課題だそうです。

 そうした世界の中で、ある職人の親方が、これからの時代の職人の育成の仕方として、次のようなことが大切ではないかと言われていました。若手の職人育成で大事なことのひとつ目は、やはり「仕事の意義」を教えることではないか。この仕事がどれだけ人や社会の役に立っているかがわからなければ、仕事に情熱もわかない。だからこそ、若手に、今、どんな仕事をしているのか。誰の為になるのかという仕事の意義を教えていくことが大事だと言われています。もちろん、やりがいだけでは人が辞めてしまうので、しっかり給料を払うことは大前提ですが、仕事の意義をしっかり伝えていかないといい職人には育たないと言われています。

 そして、次は「学習の方法」を教えること。その人が言う学習の方法とは、挑戦と失敗による学びの大切さ。ネットで調べれば、すぐにやり方がわかる時代であっても、あえて教えずに失敗させる。挑戦の機会をどんどん与えて、失敗させる。大切なのは、若手がその失敗の中から、何かを学び、活かしていくということに気づいてほしいということでした。

 そして、もうひとつが「努力の仕方」。努力というのは単なる根性論ではなく、一人前になるためのプロセスの踏み方です。例えば、畳を縫うのが遅い人がいるとして、基礎的なやり方だけを身に付けるだけでは仕事は早くはならない。身体の向きや針への力の込め方など、その人にあったやり方を身に付けていかないといけないそうです。だからこそ、技術を反復練習し、自分に合うように微調整しながら、また繰り返し練習するしかない。微調整と反復練習の大切さを教えていくそうです。

 確かに、どんな仕事もある程度まではマニュアルで教えることはできる。しかし、それも限界があるし、面白くなっていかない。自分で考えて行動していかなければ、本物のプロにはなれません。これは、職人という世界だけでなく、どんな仕事でも同じことかもしれません。
 「教えない」「見て学べ」ということは時代遅れなのかもしれません。しかし、教えてくれるのをただ待っているだけの人や“先輩が優しく教えてくれない”と文句や愚痴をいうだけの人が成長するはずがありませんし、「一般的なやり方」だけを学んだだけで、一流のプロになれるはずもない。やはり、自ら学びに行こう、盗みに行こうという仕事への情熱が沸いてこなければ、本当の成長はありません。そう思えば、その仕事の意義ややりがいを教えてあげることや、失敗をさせ、それを糧に自ら成長していく方法を伝えていくことは、何よりも大事なことなのかもしれません。
 人の育成は、その人によって変わるもの。何が正解がわからないのが育成ですが、私たちは、若手を一人前のプロに育てるために、何を教えていけばよいでしょうか。ネットで簡単に知識や技術が学べる時代になってきているからこそ、教えることの中身を考えていかないといけないのかもしれません。

カテゴリー : これからの時代の人財育成

2024 年 02 月 14 日 11:39

近道、遠回り

 誰でも無駄な苦労はしたくないと思っています。私も、無駄なことは避けたい人間です。
 ただ、それが本当に無駄であるかは、後になってみないとわからないこともあります。
 私も、昔、お客様のためにと、数日かけて作りあげた資料がお客様の思惑と異なり、ゼロからやり直すということがありました。いろんな資料を調べ、労力をかけて作成したのに、一言で無駄になってしまったことで、その時はさすがに良い気持ちになれませんでした。
 しかし、しばらくたって、よく考えてみると、先方の指摘には確かにそうだと思えることがあり、それを踏まえてやり直してみると、作りあげてきたものがさらにブラッシュアップされ、以前より良いものになっていました。後日考えてみると、このやり直しの体験は、自分自身にとってもより、そのことについて深く学べる機会となり、意外と無駄ではなかったと感じることがありました。

 ただ、ビジネスの世界では、最短ルートで仕事をせよ、無駄をなくせ、効率よく仕事をしろと言われ、いかに短時間で成果を出すかがよいとされていますので、こうした無駄はできるだけ少ない方がいいはずです。最初から顧客の要求を聞いて作っておけば、やり直しがないという意見もあります。
 ただ、その時もそうでしたが、その仕事は新しい仕事で、「お客様自身も正解がわからない」という状況で、いくら望みを聞いてもはっきりとした答えは誰もわからない。だから「出てきたもの」で判断するしかないというのが相手の気持ちです。仕事によっては、やりながら、試しながら、考えていくしかないということも多いはずで、その無駄がよいものを生み出していくことにつながっていくことは多いにあることです。だから、「無駄をなくせ」ということは一概に正解とはいえないと思います。

 しかし、限られた時間や予算の中では、効率よく仕事をすることは確かに大事です。上司の言うことを聞き、顧客の要求をのみ、決まった手順やマニュアル通りにやっていけば、失敗は少なくなり、効率は高まり、成果も出ると思います。会社は過去の延長で回っている部分もあるので、昔も今も、こうした近道思考は確かに大事なビジネススキルだと思いますが、誰も正解がわからない時代を歩く時や、「未知の仕事」をする時は、この方法だけでは通用しないように思います。
ある程度の失敗ややり直しという無駄がなければ、道は切り開けない。また、人生でも仕事でも、その時、苦労したことや困難な目にあったと感じたことでも、数年後に「あの失敗のおかげで」と、それが糧になったり、自分の今の成功につながっていることに感謝することがあります。失敗にはマイナスだけでなく、プラスも多くあり、無駄だと思えることが、仕事の「深み」、人間としての「深み」にもなっていると感じることもあります。
最近は、コスパ、タイパと、みんなが最短ルートを求める時代ですが、無駄や遠回りは、長い目で見れば有効な方法であり、どちらかということではなく、両方を使い分けていくことが大事なのかもしれません。

カテゴリー : 働きがい・やりがいの向上

2024 年 02 月 06 日 11:15

受け継がれる理念

 経営理念は、行動を起こす時の判断基準になるものです。普段は考えない理念でも、迷った時や何か困難なことが起こった時には、誰もが立ち戻る「初心」だと思います。経営を航海に例えるならば、「もう前に進めない」という状況になった時に、我々は、そもそもなぜ航海に出たのか?どこに向かい、何をしようとしていたのかと考えると思います。遠回りになっても前に進むべきだ。あるいは、もう一度戻って出直すべきか。航海の「目的」や「行き先」に戻って考えなければ判断はできません。こうした戻る場所が経営理念だと思います。

 先日発生した令和6年能登半島地震では、たくさんの方が被害に遭われ、今も苦しんでおられます。その中である酒蔵(宗玄酒造/珠洲市)が復興に向けて動き出されたというニュースがありました。幸い従業員の皆さんは無事だったそうですが、蔵は大きな被害を受け、今期の仕込みのお酒も樽も、使えない状況になってしまいました。しかし、自宅が被害に遭い日常生活もままならない状況、蔵も電気が使えない困難な状況でも、「楽しみに待ってくださっているお客様に、何とかお酒を皆さんに届けたい」という思いで、杜氏や社員の人たちが集まって、残った酒を手がかりに手作りで酒造りを始められたそうです。この蔵は江戸時代に創業した老舗の蔵で、社長は「お酒を出し続けることは蔵の使命であり、社員の生活を守ること」だと言われているのが心に残りました。
 よく我々は「使命感」という言葉を使いますが、普段から、こうした強い使命感をもって働いている人がいるからこそ、江戸時代から今日まで、蔵が守られ、酒が守られてきたのだろうと思います。ただ生活のために働いている人たちなら、こんな行動を起こさないはずです。長寿企業と呼ばれる会社には必ず、昔から大切にしてきた理念・使命感がありますが、こうした危機の時に生きてくるのが「理念」なのかもしれません。

 よく多くの会社で、理念の大切さが社員に伝わらないということを聞きます。短期的に見れば、目の前の課題に取り組むだけで事業は成り立っていくので、働く人もそこまで理念を考えなくても良いので、身近に感じないのかもしれません。ただ、どんな企業も大きな試練を乗り越える時に、理念を判断軸に経営をしてきたはずで、やはり長期的にみれば理念は経営にとって大事なものだと思います。
そもそも理念は何のためにあるのか。過去にどんな判断をしてきたのか。この酒蔵はこのことを後輩に語り継いでいくと思いますが、理念を伝えるには綺麗な文章をつくって解説することよりも、口から口に語り続けることが先輩の役割であり、会社として大事にしていくべきことなのかもしれません。

カテゴリー : 経営理念の浸透・共感

2024 年 01 月 30 日 13:16

見える景色と初心

 会社である程度の年数を重ね、仕事ができるようになると成長意欲が低下していくこともあると言われます。確かにそんな人もいるかもしれませんが、ただ、そんなベテランの中にも、どんなに年数を重ねても毎日いきいきと働かれている人もいます。こんな差がなぜ生まれるのかは、おかれている環境や体験が違えば違うので一概にこうとはいえないと思いますが、いきいきと働かれている人は、そこにやりがいや楽しさを感じている気がします。何年も同じ仕事を続けている人でも、そこにやりがいを感じている人はたくさんおられます。

 例えば、伝統工芸の職人。傍からみると、毎日同じような作業をしているように見えることがあります。でも、まわりには、単調な仕事と見えても、その人にとっては単調な仕事の中に小さな違いが見えていて、うまくいく時とそうでない時の差がわかる。だから、うまくいけば嬉しくなり、うまくいかないと悔しくなる。見えている景色はその人にしかわかりません。
 こんな差が見えていると毎日の仕事は新鮮になり、楽しくなります。でも、そこを見えない人、見ようとしない人にとっては「つまらない単調な作業」となる。手を抜かず、ひとつの仕事に一生懸命向き合っていくと差が見えるようになり、適当にやっているといつまでも差が見えない。これはどんな仕事でも同じではないでしょうか。見える景色の差は心の向き方の差なのかもしれません。

 「心」というと、よく、昔から「初心にかえる」とか「初心を大切に」という言葉があります。初心というのは、「初めてのことに取り組む際の新鮮な気持ち」だと思いますが、そうした「初々しい気持ちを忘れるな」という意味以上に「自分の未熟さを忘れるな、つたなかったときのことを忘れるな」という意味があると思います。  仕事をはじめた頃は、先輩のように出来ない自分が悔しくて、手を抜かず、丁寧にやろうとしていたはず。誰もが自分の拙さに歯がゆい思いをした記憶があると思います。私も経験がありますが、あの歯がゆさがあったからこそ、もっと頑張ろうという気持ちが生まれました。でも、そうした初心を忘れ仕事が出来るようになると、つい慢心することがあります。慢心すると仕事に変化がなくなり面白くなくなる。「初心を忘れるな」というのは、仕事を楽しくするためにも大事な言葉なのかもしれません。
 初心にはもうひとつ「最初に思い立った心や最初の決意」という意味もあるそうです。初志ともいえますが、その仕事始めた時に「こうなりたい」と目指した自分の決意。これも、つい忘れがちなこと。
 いずれにしても初心は大事。皆さんの「初心」はどんなことですか。

カテゴリー : 働きがい・やりがいの向上

2024 年 01 月 23 日 09:39

誠実な仕事

 最近、いろいろなところで、不正や不祥事が明るみになっていますが、信頼していた企業が、何かをごまかしたり、隠し事をしていたということを知るとやはり大きなショックを受けます。
 「誠実である」ということは昔から大事なことでしたが、短期的に業績をあげることに追われてしまうと、ついその大切なことを忘れてしまうこともあるのかもしれません。「成果を出すためなら、多少のごまかしはしょうがない」。人間は弱いので、強いプレッシャーの中でついそんな思いを持ってしまうのはわかる気もします。「誰も見ていないから、ちょっとくらいいいか」と思ってしまうことは自分にもあります。
 ただ、人生においてもそうかもしれませんが、「誠実さ」は長期の成功には不可欠な要素。一度でも、ごまかしたり、嘘をつくと、そこで信頼がなくなり、長期的には成功できません。

 先日もそんな体験をしました。ある会社で保険の契約をした時のことです。この契約で良いのか悩んでいると、電話で対応してくださった人が「お客様ならこちらの方が良い」と、当初のプランより、安くなる方法を考えてくれました。会社の業績のことを考えると高いプランの方を勧めるのが正解だったのかもしれませんが、その人は常に私のことを優先して考えてくれ、その人やその会社に好意を持ちました。「次もお願いしよう」という気持ちになりました。誠実さはその場の業績につながらないのかもしれません。でも、確実にその人や企業への信頼にはつながり、少なくとも私は、将来も続けてこの会社を利用しようと思いました。

 「誠実さ」はその人の資質や人柄だと言われますが、私は、この人の対応から、その人だけでなく、その会社全体の誠実さを感じました。もし、この後で、なぜもっと高い商品を提案しないのかと追求されるような風土では、こんな対応はできないはず。こうした対応がよいという上司や先輩がいることもそうですが、きっとその人の上司が誠実な対応をしてこられたのだろうと思います。誠実な仕事が、文化になっているからこそ、そこにいる人が誠実な仕事をする。そう思うと「誠実さ」はその人が持って生まれた資質としてとらえることもできますが、磨き、伸ばしていける「能力」と考えて、企業全体で高めていこうとする方がよいのではないでしょうか。私たち企業に求められている「誠実さ」とは何か。わが身を振り返って考えてみようと思います。

カテゴリー : お客様満足・感動の向上

2024 年 01 月 16 日 09:55

地域で長く続く会社の共通点

 栄枯盛衰と言いますが、これだけ世の中が変化していると、一時的に流行っていたお店がしばらくするとなくなっていたり、昔住んでいた町に久しぶりに行くと、古い店がなくなり、全国チェーン店ばかりが目立つ町になっていたり、栄枯盛衰を実感することがあります。

 ただ、そんな変化が激しい世の中でも、地域の中には、創業何十年と、長く続いている企業があります。同じ変化の風を受けながらも地域の中で長く続く。こうした企業は何が違っているのでしょうか。
 そもそも、長く続くには、顧客や地域からの信頼がなければ続く訳がありません。時代に左右されるようなものではなく、クオリティの高い、「本物」の商品やサービスを提供し続けられるかどうか。先日、埼玉県にある創業70年続く会社を訪問させていただいたのですが、やはり商品へのこだわりは並外れたものでした。「現状に胡坐をかくな」、「常により良いものを生み出そう」。そんな姿勢があるからこそ、高品質が維持され顧客から支持される。社会に良いものを提供していくことが自分達の使命であるという強い思いがありました。
 ただ、そうした高い品質を生み出すのは、経営者だけで難しい。そこに共感する社員がいてこそ実現します。社員のことを考え、経営者が「適当でよい」「現状でよい」というような甘い基準でいれば、働く人も楽なのかもしれませんが、それでは顧客からの信頼は生まれません。しかし、そうかといって、ただ厳しいだけの会社では人は定着しない。厳しさの中で「人へ優しさ」がなければ長く続いていかないのではないでしょうか。
長く続く会社のもうひとつの共通点は、社員を人として大切にする「大家族主義」の想いです。別の地域ですが、先ほどの企業と同じく、創業から70年以上続く会社を訪問させていだきました。この会社にも社員を家族のように大切にする風土がありました。単なる労働力として扱うのではなく、「社員は大事な家族である」「大切な仲間である」。経営者が社員を人として大切にする姿勢があるからこそ、社員も頑張って働ける。両社には共通の風土がありました。
 もちろん、そうした会社でも、家庭の事情でやめていく人もいます。だた、辞めていった人が「あの会社は人を大切にしない」と噂をするようでは、その企業から人が離れていくはず。辞めた人も働いている人も自分の家族に「あの会社はいい会社だ」と口にされているからこそ、狭い地域の中でも採用に困らず、人が集まってくるのだろうと思います。

 地域の中で企業が長く続くには、やはり商品へのこだわりと働く人を大切にする経営者の想いがどうしても必要なのかもしれません。この10年くらいでCSやESという言葉が流行っていますが、老舗企業は昔からわかっておられる当たり前のことなのかもしれません。いいものを作ろう。社員を大切にしよう。経営者にその姿勢があるからこそ、働く人の誇りが生まれ、地域の人も共感する。「この会社は地域の誇りだ」と思われるようになるのは、並大抵の努力ではないと思いますが、栄枯盛衰の世の中で長く続いていくには、やはり、このぶれない理念が不可欠なのかもしれません。

カテゴリー : 「いい会社」が実践する理念経営

2024 年 01 月 10 日 10:00

結果とプロセス

 新年早々、石川県能登地方を震源とする地震が発生しました。被害を受けられた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。一日も早く平穏な日常が戻ることをお祈りいたします。

 先日、ある会議で仲間同士がプロセス(日々の努力)の発表をし合う機会があり、改めてプロセスの大切さを感じることがありました。
 仕事をしていく上で「結果を出す」ことと「プロセスを重視する」ことは、常に頭をよぎる大きなテーマです。働く上でどちらが大事かと問われると、どちらも大事で、なかなか選ぶことはできません。プロである限り、やはり結果を出さなければいけません。かといって、結果ばかりを追いかけても、よい結果は出ないもの。ビジネスにおいては結果もプロセスも優劣はつけられません。しかし、人間をつくる上で大事なことはと問われたとしたらと、結果より、やはりプロセスであるのではないかと思います。
 確かに結果が出ると嬉しくなる。次も頑張ろうというモチベーションも生まれます。しかし、例え準備不足で臨んだり、多少甘かったりしたとしても、たまたま結果が生まれることがあります。自分の実力が不足していても偶然に結果が出ることもあります。つまり、結果は嘘をつくことがある。それをわかっていないと、結果が出ているとつい油断をしてしまう。結果の嬉しさに有頂天になっていると、だいたい足元をすくわれます。結果だけを褒める弊害のひとつは、この慢心の問題があるのかもしれません。
 また、「結果を出せ」と言われ続けると焦ってきます。「早く結果を出さなければ」と思うと、本来の目的を忘れてしまったり、つい大事なプロセスを省略しようとしたり、すぐに結果が出る近道を探してしまいます。例えば営業スタッフなら、買ってくれそうなお客様ばかりを訪問し、すぐに購入をしないお客様とコンタクトを取らなくなる。こうした営業では当面の結果は出たとしても長続きはしません。やはり、正しいプロセスを積み重ねてこそ、いい結果が生まれ、継続するはずです。
 ただ、だから結果は意識しなくてもよいかというと、それも弊害があります。「結果は気にしなくていい」という甘い環境では、プロセスも甘くなり、形骸化したりすることがあります。結果を意識するからこそ、厳しくプロセスを見つめ直す。
 こう考えていくと、結果とプロセスは人が成長するための自転車のようなものかもしれません。日々コツコツとプロセスという後輪をしっかりと漕ぐ。そうすると前輪である結果が進む。もし、前に進まない時は後輪の回し方を見直し、もう一度漕ぎだしてみる。やはり、前に進むために重要なのは、やはりプロセスだと思います。

カテゴリー : 働きがい・やりがいの向上

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